買収するための準備心構え
買収するための準備・心構え
まず、M&Aで事業・企業を買収する際に、最も重要なことを申し上げます。
M&Aはそれ自体が、目的ではなく、手段です。
つまり、経営上の課題を解決する幾つかの戦略オプションの一つです。
課題解決のための幾つかの戦略の中から、M&Aという手段(戦略)を選択する訳です。
従って、解決するための課題があり、それを解決する手段がM&Aですので、取得したい事業・企業は自ずと明らかになります。これは反面、検討・取得しない案件が明らかになることを意味します。
この共通認識がないまま、M&Aを推進することは極めて危険です。
この共通認識が醸成されないままに、M&A専門の部署、担当者を決め、M&Aでの買収をスタートしたら、どうなるでしょうか?
まさに、手段であるはずの、M&Aが目的となります。
何のために、どんな課題を解決するためにM&Aをするのか、またそれを全社(少なくもと関係者)で共通で認識することは、M&Aをする上で最も重要であると言えます。
【心構えその1】情報機密を守る
M&Aにおいては多くのケースで、売り手と買い手の間で「秘密保持契約」が締結されます。例えば、「M&Aを検討していること」「企業の経営状態」「事業の方針」などの情報が外部に漏洩すると、経営的に大きなダメージを被る恐れがあるためです。そのため、M&Aで情報を提供するにあたって、情報の扱い方や損害賠償などについて記載した契約書を交わすことになります。
この秘密保持契約を破ると、情報漏洩によって生じた売り手の損害を全て負担しなければならない可能性があります。もちろん、社会的な信用を失うことにもつながるので、情報機密の厳守を徹底する必要があるでしょう。
具体的には、「情報を共有する範囲」「情報を伝達する手段」などを明確に決めておき、社外だけでなく社内の漏洩にも注意を払うことが大切です。
【心構えその2】買収するべき、買収するべきでない企業・事業を見極める
買い手企業がM&Aを成功させるには、対象企業をしっかりと分析して「買収するべき会社かどうか」「買収するべきでない会社かどうか」慎重に見極める必要があります。では、「買収するべき会社かどうか・買収するべきでない会社かどうか」という部分は、どのように判断するべきなのでしょうか?
買収するべき会社・事業
買収するべき会社・事業については、あらかじめ「戦略を決定」しておくことが大切なポイントになります。M&Aはあくまでも経営戦略の手段であり、目的(ゴール)ではありません。「なぜM&Aをするのか」という部分を明確にし、その目的を全社で共有することによって、企業の意識を統一させる必要があります。
M&Aにおける買い手の主な目的としては、「市場規模の拡大」「新しい事業への参入」「経営資源の調達」などが挙げられます。当然、目的が異なれば買収するべき会社・事業も変わってくるので、まずは明確な目的を定めることが大切です。例えば、経営資源の調達を目的とするのであれば、優秀な人材や魅力的な不動産などがある対象企業が望ましいと言えるでしょう。
買収するべきでない会社・事業
買収するべきでない会社・事業については、明確な「基準」を設けることが大切です。例えば、「財務処理の取り扱い方」「契約書の取り扱い方」「従業員の数」「取引先や顧客の数」「経営者の人間性」などの基準を設けておけば、分かりやすく候補を絞ることができます。
複数の項目で基準を設けてももちろん構いませんし、項目を多く設けて基準を厳しくすることで、買収のリスクを抑えることができるでしょう。
ただし、基準を厳しくし過ぎると、対象企業が見つからない可能性があります。その点に注意しながら、自社が求める基準を設けるようにしましょう。
【心構えその3】しっかりと検討し、必要な会社・事業を買収する
上記のように目的や基準を定めるだけでは、自社に適した対象企業を選ぶことは難しいでしょう。適した対象企業を見極めるには、より細かい情報にも目を通さなければなりません。
実際のM&Aでは、買収後のリスクをより抑えるために、「デューデリジェンス」と呼ばれる調査が実施されるケースが多くなっています。デューデリジェンスとは、買い手が対象企業の価値を分析する調査のことです。
一般的に、デューデリジェンスは公認会計士や弁護士などの専門家が担当するため、デューデリジェンスを実施するにはコストがかかります。しかし、対象企業のリスクを洗い出す、存在するリスクに関する対策を立てるためには、デューデリジェンスは欠かせない工程と言えます。対象企業の実情は、ただ外部から見ただけでは把握することが難しいためです。
したがって、可能であればデューデリジェンスを実施し、その結果を踏まえて買収する会社・事業を慎重に検討することが望ましいでしょう。
【心構えその4】アフターM&Aの実行計画を練る
前述でご紹介した通り、M&Aの成約は買い手にとってのゴールではありません。「アフターM&A」こそが買い手の本当のスタートであり、アフターM&Aの内容次第でその後の経営状況は大きく変わってきます。
したがって、M&Aを検討している段階で、アフターM&Aの実行計画を練る必要があるでしょう。具体的な実行計画を練っておかないと、統合後に新たにリスクが生じた時に、スムーズに対処することができません。
まず取り組むべきものとしては、「経営統合(PMI)」が挙げられます。具体的には、「従業員へM&Aを告知する」「給与などの就業条件を統合する」「規程や企業文化を統合する」「必要に応じて人事や組織を再編する」などの業務に取りかかる必要があるでしょう。特に、買収された側の従業員は不安を抱えているケースが多いので、従業員のモチベーションが下がらないように入念にフォローすることが大切になります。
【心構えその5】タイミングを逃さない
M&Aの買い手は、対象企業を買収するために資金を消費することになります。そのため、「可能な限り、コストを抑えられるタイミングを選びたい」と考えている経営者もいることでしょう。
しかし、売却価格が安いからと言って、その分メリットが大きくなるわけではありません。売却価格が安いということは、対象企業の「バリュエーション(企業価値)」が低いことを意味するので、M&Aの成約後に得られる利益が減ってしまう恐れがあるためです。
では、売却価格が高いタイミングはどうでしょうか?その場合は、成約後の利益を期待しやすくなりますが、その反面で買収コストが多くかかってしまいます。
このように、買収の適切なタイミングを見極めることは簡単ではなく、ケースによって買収するべきタイミングは変わってきます。対象企業の実情を分析しながら、買収のコストと買収後の利益を天秤にかけて、買収するべきタイミングを逃さないことが大切です。
【心構えその6】相手の立場に立って考える
望ましい対象企業を見つけたとしても、M&Aが成約しなければ意味がありません。実際に、交渉の段階で売り手が興味を失くしてしまい、破談をしたといったケースも存在しています。
そのため、M&Aでは買い手も相手の立場に立って考えることが大切になります。売り手がどのような買収企業を求めているのかを検討し、売り手にとって理想の買収企業となれるように努める必要があるでしょう。
売り手が買い手に対して望む条件としては、例えば「売り手のヒト、モノ、ノウハウを適性に評価する」「売り手側の短所をカバーできる」「売り手側の従業員をしっかりとフォローしてくれる」「社名や事業の継続などに関して理解がある」などが挙げられます。候補として考えている対象企業が、自社に対して何を望んでいるのかを明確につかみ、その希望を実現できる買収企業を目指すことが大切です。